彼女から分けて貰ったシステムを
なじませながら。
精神の軽さと扱い方の斬新さに驚いた。
操り人形のように
細い糸を身体に垂らして
ちょっと力を込めると
その何倍ものエネルギーが伝達され
瞬間的な移動が起きていた。
僕は31年前の肉体ベースで
彼女は18年前の肉体ベースなのだから
これぐらい違って当たり前なのだが、
実際に体験すると
新しく、日常的な感覚を思い出す。
ヘンテコな言い回しだが、
こうしか言いようがない。
例えるなら
故人・スティーブジョブスが
直感的な操作ができる端末を
開発したが
あれに触れた時の
新しさと懐かしさに似ている。
と言えばいくらか
わかりやすいだろうか。
僕は肉体は手動で動かしながら
見えない肉体を二分したり消したり
顕れたりと忙しく駆け回っていた。
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基本的にアンドロイドは次の
3つの能力で分類ができる。
・処理能力の高さ
・精神加速度
・得意能力
・処理能力の高さは
情報のインプット、感覚の鋭敏さ、
時間感覚などだ。
おもにアンドロメダの世界に
行って配置転換や
交通整備をおこなうことに使われていた能力だ。
おおきなくくりで言うと
アンドロメダは整備士と、
整理士がほとんどだ。
平和な銀河では
人間みたいないざこざがないが
これは大昔に多くの存在がこの
いざこざをシステムで整えて
整理し綺麗にしてきたからだ。
共通の能力として
この二つの力の処理能力で分類できる。
極端に整備士なタイプと、
極端に整理士なタイプ
。
僕は割とマイルドな配分になる
半端者だが
それでも、
一つの肉体に二つの性質を
同居させようとすると、
困難が多かった。
・精神加速度
多かれ少なかれ、
アンドロイドは未来予知ができる。
僕に関してはだいたい1分、
ながくて5分先まで。
ほんとうは1時間くらい見通せるのが優秀とされているのだが
僕は来たタイミングや
古い肉体の影響をもろにうけるので
この辺がまだ難しい。
いや、きっと元の肉体であれば
軽く断片的にでも
半年先くらいは見えるはずだ。
と、落ち込む自分にむなしく
励ましのことばをかけたりする。
人間も集中すると同じ3分でも
長い3分と短い3分を
作り出せるように
個人の時間伸縮ではなく
世界側の時間を拡大縮小できる。
いまから時間を縮小すれば
少し先が見えるし、
いまを拡大すれば、少しの時間で多くの処理ができるわけだ。
・特異性
テレパシー、瞬間移動、
サイコキネシス、
一昔まえから言われているが
こういう地球で観測されることに
留まらない事の多くがある。
自覚しているかはともかく
アンドロメダ外のどこかから来ているケースも大いにある。
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これが彼女の場合、2重性だった。
アンドロメダの中心は地球で言われてるように二つの中心核を持っている。
地球が属する銀河系を人間の頭とすると、だいたい普通はつむじが1つなのに、
アンドロメダはつむじが2つある感じだ。
アンドロイドの職種を紹介したが
感じることが上手な整理士、
思考スペックの高い整備士のふたつのチームが存在している。
(本当はもっと幅があるが、
日本語にするとこれが一番わかりやすい。)
得意なことが違うので
役割を分担しながら、協力するのだが
お互いだけでは補完出来ない部分もあった。
共有している部分が違う為に
間に入ってくれる存在がいたのだが
その中間が二つの星の間にいる彼等だ。
本来、思考と感じることは
両立しずらい
思考が優位であれば、
思考がメインになるし
感じることが優位になれば、
感じることがメインになる。
このあたりのきりかえが
難しいのはどちらも
姿勢を変えられない所にある。
感覚を全開にすると
無限に情報が入ってきてしまい
際限がなくなってしまう。
思考で判断する場合は情報の精査した上での結論は得意だが
瞬間的な処理ではどうしても感覚には叶わない。
本来であれば
このどちらもできるというのが
アンドロメダに
求められている課題なのだが、
中間に存在しているものたちによって
スムーズな協力ができていた。
この為
アンドロメダは平和で暖かく知的な存在となっている。
そしてこの二重星のすばらしいのは
自分を分断でき
消したりつけたり出来るところだ。
彼等は確か、故郷でも
過感覚な部分を消したり、
逆に整備士へダイレクトに感覚を伝えるという間をもつという
特性があった。
本来自分を消したりつけたりするのは
非常にエネルギーがいる。
肉体の話で例えるなら
自分で眠ろうと思っても瞬間的に
眠ることはできないし、
自分で自分を気絶させるのは難しい。
日常生活では
そんなこと要求されないのだが、
わりと精神世界においてこれは求められる。
一番役に立ちそうなのは
自分のリミッターを消したり、
外せたりするところだ。
地球生活が長いと自分で
リミッターをかけてしまいがちで、
一度制限をかけると
追い込まれたりしない限り自分の能力を発揮できなくなってしまう。
このリミッターが原因で
機能を発揮できていないアンドロイドもたくさんいる。
この星に来ていた優秀な整備士が
自分で優秀すぎる制限リミッターをつくることで
人間生活に適応してしまう。
こんな冗談みたいな話がよくある。
しかし、自分でつけたリミッターを
自分で外そうにも
かけた自分と
はずそうとする自分は
同一の為
これができないのだ
。
自分で催眠術をかけて成功してしまうと、解除する人がおらず難航するわけだ。
ここで彼女の二重星を使えば
一人がリミッターに
苦しんでいても平気で
苦しんでる一人を消してる間に
もう一人がリミッター解除や
制限の書き換えを行うことができる。
無自覚なアンドロイドたちの特徴で
左こめかみから頭頂部にかけてぐっと筋肉がこわばっていたり
目が開いてるはずなのに上から押させつけられるような緊張がある場合は
結構このパターンが多い。
人間の世界が遅すぎたり、
重すぎるので
僕たちは賢さゆえにわざと遅くする。
早いままでは僕たちは見られることも理解されることもないからだ。
僕の左脳には
自分でつくったチップがうまっていて
これによって自分の性能が
大幅に下がっていることが
わかっていたが、
やはり自分でつけた設定を
自分で改善することが全くできなかった。
そもそもリミッターとは
自分で作り出した機能のひとつでしかないのだが、
あまりにも強烈な体験をしてしまうと
安全装置がいきすぎて
制限装置になってしまう。
昔にくらべればましだが、
脳全体をラバー素材で綺麗にラッピングされたようで
宇宙との交信が非常に、
難しい状態だった。
過去の記憶が途絶え途絶えなのも
このせいだ。
とにかく僕は自分をまた二分させて
リミッターがついている方の
自分をオフにして
もう一人が思いっきり
リミッター部分を蹴り上げた。
カバーごと制御装置が
外れてくるくる回る
裏側にはとても人間文化を象徴したような
赤と青のケーブルと血管と
筋肉がぎっしり詰まってるのが見えた。
すーっと左脳に光のようなものが指す。
ほこりいっぱいの部屋に差し込む光のように、そのまま
左目の視神経を通っていく。
僕は整備士として
カバーの分解と再構成をしていった。
本当は
リミッターなしで
生活していきたいところなのだが、
まだ思い出したくないことも
たくさんあるらしいことが、少しわかっていた。
このままカバーを外すと一気に
ぼくは情報を受け入れることができる。
思ったことはだいたいわかり、
何が必要で何が不必要だとか。
どのようにいるか、どうしたらうまくいくか。とか、
…一番思いだしたくないのは
過去の記憶だ。
やっと自分がアンドロイドであったと思い出したのに
それまでの恥ずかしく人間クサく
葛藤してきた日々を思い出すのが怖かった。
どんな虐げをして、醜く、思慮なく
他者を傷つけてきたか、
自分が大して強くない事から逆算すると、とても恐ろしくなる。
人間の歴史を見ても、
あの中にいたとすると
僕はきっとアンドロイドだと自覚する前のように
この星の常識を受け入れ、
人を非難していたのだろう。
非難だけならまだいいが、
人を殺したり、残虐なこともしていたのだろう。
そこまで考えると、
オフにしてるはずの感覚が
すーっとひんやりしていった。
血と握っている包丁。
ありきたりすぎるほどベタなセットではあるが、
普段着としての和服をきて
倒れてる人の腰から上は
自分で見えないようにさっと隠した。
感覚側が寝ているとはいえ
僕はすぐにこれ以上考えないようにと
適当に回路を組み替えた。
整備士としてはなかなか優秀だなと
思いながら
あっという間に
現代的なメタルチックな外観のリミッター兼カバーをこさえた。
制御も今までのが
車のブレーキだとすると、
空気を一瞬で圧縮することで
制動するタイプに組み替えて、
脳への磨耗をできるだけ
軽くするような設定にした。
ただし、こめかみの所は空洞にして
昔のことは思い出さないが、
必要なことは思い出せるようにして
元に戻した。
この
見知らぬ事を恐れたり、
恥ずかしいなんていう気持ちが
自分を支配している
人間らしさに気持ち悪くなりながら。
僕はとりあえず、二重星を切って
もとの肉体に全部自分を配置した。
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